【バレー】カーテンコール山添信也(パナソニック)どんなときも変わらないひたむきさ

【バレー】カーテンコール山添信也(パナソニック)どんなときも変わらないひたむきさ

2019-20シーズンを最後に、パナソニックパンサーズから、一人のミドルブロッカーが勇退した。彼の名は山添信也。身長は189cmとミドルブロッカーとしては小柄である。長崎は五島列島の生まれで、美しい海に囲まれて育まれた。山添の生まれた日でもある今日、彼のバレー人生を今一度を振り返ってみたい。

幼い頃から、一人で遊ぶときにはおもちゃや電気製品を分解するのが好きだった。ラジオが壊れた時など「なぜ動かないのか」「どうしたら直るのか」に夢中になった。この性格は、今でも変わらない。新型コロナウイルスの影響で「おうち時間」が推奨されたときに、山添は自ら配線してバスルームにテレビを設置したり、こどもたちの遊ぶスペースを設置したりと、電気に詳しいパパとして、家庭でも活躍しているようだ。

バレーボールは中学の部活動で始め、170cmほどだった山添の身長はどんどん伸びて、県内の強豪校、大村工業から声がかかった。山添の父と恩師になる大村工業の伊藤監督との縁で、山添は進学を決めた。のんびりした中学からきた山添は、当初は強豪校の練習と気合にたじたじとなっていたところもあったようだ。しかし、ベンチから活躍するチームメイトを見ると、「自分も出場したい。コートを駆け回りたい」という思いがつのった。

試合に出たい一心の山添は、持ち前の「分析力」で上手い選手のプレーを観察し“分解”していった。2年生からは念願の試合出場を果たすが、控えめな性格ゆえ「自分が足を引っ張るのでは」と心配もしたという。

高校時代では、得意の電気工学をいかして就職・進学するか、バレーの道を進むかで悩みもした。大阪産業大学からの声がかかり、山添は腹をくくった。

ここから少し時間がとぶ。筆者が数年前に大阪に1週間ほど滞在して各チームを取材していたときのことだ。空いている日に飛び込みで大阪の美容院に行った。担当してくれたアシスタントの美容師二人のうち一人が、カルテを見て「なぜ東京在住なのに、わざわざうちに?」ときかれ、しかたなく「私はバレー記者なので…」と答えると、その美容師さんは目を輝かせ、「自分、高校までバレー部だったんですよ。永野とかわかりますか? 北島武は? 朝長孝介は?」とどんどん盛り上がった。コンビを組んでいたもうひとりが「悪いんやけど、おれ、お前の話に全くついていけんのやけど」と哀願するも話は止まらず、「清水邦広ってわかりますか?」「そりゃあわからないわけないよ。全日本のエースだもん」「高校の時試合やったんですけど、めっちゃすごかったですね」「へーどこの高校なの?結構強かったんですね」「大村工業なんです」「え、名門じゃん。朝長くんとかもそうじゃん」「そうなんですよ」…話は永遠に終わらないかと思われたが、施術のために離席する前、彼はおそるおそる切り出した。「あのー絶対知らないと思うんですけど、山添信也って知ってます?」「ん?もちろん知ってるよ。あんまり派手じゃないけどいいミドルだよね。明日取材に行くのは彼のチームだよ」「マジっすか?うわーほんとマジですか? あの、自分山添の一個上で、下宿が一緒やったんですよ。同じバレー部で。だけど、バレー部の中でもあいつだけめちゃくちゃ真面目やったんです。それで結局実業団に行ったのがその代では彼一人で。みんなで、やっぱりプロになるやつは高校の時から違うんやなって言ってたんですよ。僕のこと…もう忘れてますかね。覚えててくれるといいなあ」「明日聞いてみますね」「マジすか。覚えててくれたら嬉しいなあ」と、そこでアシスタントではない美容師がやってきて会話は終了したのだが、私は翌日約束を果たすために、パナソニックアリーナの2階席から練習後に山添選手を呼び止めた。

パナソニックの練習見学は2階席からで、終了後、大きな声で名前を呼んで話に来てもらうというシステムだったのである。大声を出すのは恥ずかしかったが、運良く片付け物のために観客席に近づいてきた山添選手に、私は声をかけた。自分がバレー記者であること、今日は他の選手の取材に来たこと。そこまではうんうんと聞いていた山添選手だったが、「それで、昨日美容院にいったんですよ」と告げると、頭上に疑問符が浮かんでいるのが見えるような気がした。私は手短に前日の美容師さんの話を伝えた。美容師さんにとっては嬉しい話だったことに、山添はちゃんとバレー部の一個上の下宿が同じ先輩のことを覚えていた。「懐かしいなあ。元気でしたか?」と笑顔で尋ねる山添に、私はうなずいてみせた。

こうして私にとって山添は「ほんのりと特別なご縁がある」選手となった。私の記者としてのスタンスは、がんばっている選手は全部応援するというものだが、こういうちょっとしたご縁がある選手は、ちょっとだけ特別に気にかけるようにしていた。

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