引用元:毎日新聞
新たな「戦い」の火蓋(ひぶた)が切られた。東京オリンピック・パラリンピックを開催する東京都を取材するため、運動部から社会部に異動した2016年10月。その直前、東京都の小池百合子知事による水泳、ボート・カヌー、バレーボールの3会場新設見直しが始まった。開幕まで4年を切り、「あり得ない」と思った。
国際オリンピック委員会(IOC)はかつて、欧州貴族が始めたサロンのような存在だった。五輪のグローバル化は進んだが、アマチュア主義を背景にした私的クラブの伝統は今も息づく。
スポーツの独立性、高潔性を守ることに重きを置いており、五輪の価値を下げかねない都の提案に耳を貸すとは思えなかった。
世論は正反対に動いた。当時の本紙世論調査では、74%が会場見直しを支持。「復興五輪」を旗印にカヌー・ボート会場の移転候補先となった長沼ボート場(宮城県登米市)については、知事の独断にへきえきしていた都庁内部でさえも「移転か」との空気が流れた。
小池知事とIOCのトーマス・バッハ会長の会談では、既存施設活用の「持続可能性」をアピールする小池知事に対し、バッハ会長は「実行可能性」を強調。国際競技団体や大会組織委員会からも難色を示され、壮大な「ちゃぶ台返し」は失敗に終わった。
その後、猛暑懸念によるマラソンの札幌移転はIOC主導で進められ、新型コロナウイルスの感染拡大による開催延期は政府が提案した。
五輪を開催する意義は何か。開催都市の存在感が希薄になる今なら「ちゃぶ台返し」の意図を理解できる。【芳賀竜也】

