今年10月に開催された男子バレーボールのワールドカップ。会場では、連日、満員の観客が、西田有志(ジェイテクトSTINGS)の爆発力のあるサーブに沸き立ち、石川祐希(キオエネ・パドヴァ)のトリッキーなプレーにどよめき、日本の選手たちが躍動する姿に熱狂した。
【記事写真】清水邦広ら、バレーボール選手から信頼が厚い荒木大輔助教。
その中で、33歳の清水邦広(パナソニックパンサーズ)がコートに入る時だけは、どこか特別な、温かみのある拍手が贈られた。大黒柱として長く日本代表を支えた彼が、選手生命をおびやかす大怪我を克服してそこに帰ってきたことを、ファンは知っていたからだ。
右膝の前十字靭帯断裂、内側側副靭帯断裂、半月板損傷、軟骨損傷。2018年2月の試合中に負ったこの大怪我からの復帰は、清水自身の努力と執念の賜物だ。しかし、1人ではなし得なかったのも事実である。清水はこう語っていたことがある。
「荒木先生がいなかったら、引退していたと思います」
「荒木先生は最強ですよ」荒木先生とは、清水の右膝の手術を執刀した神戸大学医学部附属病院整形外科の荒木大輔助教である。
清水だけではない。長岡望悠(久光製薬スプリングス)や浅野博亮(ジェイテクト)など、近年、前十字靭帯の怪我を負ったバレーボール選手の多くが、荒木医師によって復帰に導かれてきた。浅野は「荒木先生は最強ですよ。男子はめったに戻る人がいなかったのに、自分と清水さんは全日本にまで復帰できましたから」と言う。
清水が復帰した姿を見て、「荒木先生に診てほしい」と頼ってきた大学生もいる。
荒木医師に取材させてもらいたいと思ったのは、以前、清水にこんな話を聞いたからだ。
復帰を説いた膝のスペシャリスト。2018年2月18日のJTサンダーズ戦の試合中、スパイクの着地と同時に清水は崩れ落ちた。「右膝から下がぶらんぶらんの状態で、その瞬間に、もうバレーボールは諦めた」と振り返る。病院での全治12カ月という診断も追いうちをかけた。清水はその前年にも、右足の舟状骨骨折で約10カ月間のリハビリを経て復帰していた。その年は代表を辞退し、怪我をしにくい体づくりを徹底的に行って2017/18シーズンに臨んでいただけに、ショックは大きすぎた。
「辞めます。引退します」
そう言って泣き続ける清水に、荒木は懇々と話をした。自分以外にも膝のスペシャリストを4人呼び寄せ、こう語りかけた。
「確かに前十字靭帯の怪我の中でも大変な怪我だけど、治らない怪我じゃない。手術の方法はいろいろあるので、僕1人じゃなく、みんなで一緒に一番いい方法を考えて、絶対に治すから、だから清水君、今すぐ辞めるなんて言わないでほしい。今すぐ引退しますではなく、一度頑張って復帰してほしい。それで納得がいかなかったら、その時に辞めてもいいから」
ある意味、その患者の人生を変える、人生を背負うような、そんな熱量を感じる言葉だ。その熱量や覚悟はどこからくるのか聞いてみたかった。
諦めかけた清水邦広を支えた名医。バレー界に信頼される「荒木先生」。
引用元:Number Web

